児童書ライフ

なぜそのようなことを聞くのか、なぜこの選択肢を用意したのかがわかり、「ああ、苦労して問題を作ったのだね」という気持ちになりほぼ間違いなく正解を答えることができるのだ。 私は大学受験の国語でその境地に達した時、ほとんど間違えることがなくなった。
目からウロコの発見だった。 それまで私はずっと答える側に身をおいていた。
そのため、自分の価値観で答えようとしていた。 当然、出題者の価値観と私の価値観のずれが、私は不正解とみなされる。
今思い返してみても、私は自分の価値観を答に反映させすぎていたように思う。 向こうは客観的な評価をしなければいけないので、私一人の価値観や深い読みにかかずらわっていることはできない。
出題者はもう少し浅いところできちんとふるいにかけたいのである。 つまり試験制度を考えた時、明らかに私のスタンスが間違っていたのだ。

一対一の面接ならいざしらず、試験という場で自分の個人的な読みの深さを評価しろ、というのがどだい無理な注文だったわけである。 話は脱線するが、東大の入試問題は非常にすばらしい。
特に二次の国語や社会の論述問題はよく練られたすぐれた問題が出題されている。 あまりにすばらしいので、解く意欲がふつふつとわいてくるほどだ。
またその問いに答えられなくても納得がいく。 つまりあまりに本質的かつ具体的なので、それに答えられないのは明らかにこちらに実力がないと証明されてしまう、そういう種類の問いなのだ。
一方、世間には実にくだらない入試問題もある。 こんな事を聞いて何の力を試しているのかと思わざるをえないものや、明らかに些末な事を平気で聞いてくるものもある。
確かにその知識を知っていることによって、他の事も知っているだろうと推測できるかもしれないが、一つ一つの問いに何の意味もない。 私は小学生の塾をやっているが、小学生同士でペアになってある知識について出させると、出題者側にまわった途端、その問題に熟知するようになるからおもしろい。
正解を見ながら問いを発しているので、染み込むように自分に入ってくるのだ。 出題者側と答える側を交互に入れ替えてやらせると、算数の問題でも、社会の論理的な問題でも、子供は驚くほどスピーディに知識を習得する。
問いの力に目覚めるということのすごきである。 ポジションチェンジ、あるいはモードチェンジが大切だということだ。
忘れてはならないのは、その時コミュニケーションが成立しているかどうかである。 ポジションチェンジしても、質の低い問いを発しているようではあまり意味がない。

コミュニケーションには歴然としたレベルがあるのだ。 本書では質の高い対話の具体例を数多く取り上げるが、上達するためには、よいものをたくさん見ることがいちばんの早道だからである。
悪い対話の例を見比べてもコミュニケーション力は上達しない。 質の高い対話の例をたくさん分析し、なぜすぐれているのかと見抜く目を養うことが狙いである。
良い物か悪い物かわからなければ進歩はできない。 私は、本書でとりあげた対話の何がすぐれているのかクリアに説明していくつもりである。
本書を読まれた読者の方が、普段の会話の中で、「ああこの瞬間はいいコミュニケーションができた」「この時間は相手とのコミュニケーションに失敗した」という感性が働くようになればすばらしいと思う。 コミュニケーションを判定する価値基準を自分の中に作ってほしいのだ。
そのために必要な踏み台として、「質問力」という概念を本書ではメインにすえていきたい。 「質問力」があればすぐれた人から情報が引き出せる普通、私たちは聞くより答のほうに注目しがちである。
おもしろい答、正しい答ができるかどうかは、専門的な知識や経験、言語能力などの差によって違ってくる。 要するにその人の総合的な実力にかかっているわけである。
知識も経験も薄っぺらな人間なら、答も薄っぺらになるわけで、いたしかたない。 急に変えようといっても無理である。
質問は事情が違う。 自分がたとえ素人でも、質問のしかたによってすぐれた人からおもしろい話を聞き出すことができる。
頭の中で少しでも質問を工夫するだけで、現実は変わってくるのだ。 普通の人は話の場つなぎに何となく質問を発してしまう。

沈黙がおとずれた時、とっさに何かを聞かなくてはいけないという切迫感から、その場つなぎで質問をしてしまう。 普通の人の「質問力」である。
聞かれた方もそれほどおもしろい質問ではないが、誠実に答えようとする。 だがくだらない質問が続いていくうちに、もういいかげん答えるのが嫌になってくるだろう。
大変な損失である。 おもしろい話をいっぱい持っているすぐれた人を前にして、話を聞き出すチャンスをみすみす逸していることになる。
人が成長していくためには、自分よりすぐれた人と対話をするのがいちばん早い。 私はテニスをやっていたのでよくわかるが、テニス上達のコツは自分よりうまい人と打つことだ。
上手な人はテニスに必要なテンポを持っている。 いっしょに打っているとそのタイミングがつかめてくる。
また上手な人は、自分より下手な相手には無茶に打つてはこない。 徐々に速い球に慣れさせていく。
だからその人と打っているだけでかなりうまくなった感じがするのだ。 コミュニケーションも同じである。
対話が上手な人は下手な人にさまざまな助け船を出している。 うまい人の話を聞くと、相手に発している場合が多い。
「で、この時の気持ちはどうだったの?」「具体的に言うとどうだったの?」と上手に聞くので、対話がうまくいっているように見えるが、それは聞く方がうまいからである。 「質問力」に関してまず大切なのは、聞き方がうまければ、自分に実力がなくてもおもしろい人のおもしろい話が聞き出せるということだ。

質問がおもしろければ、人はどうしても教えてあげたくなってしまう。 これを私は「教育欲」という造語で呼んでいるが、「教育欲」が動き出す最低限の「質問力」を身につければ、仕事に初めてついた時でも上の人からよい情報を得ることができるだろう。
就職して半年ぐらいの卒業生が私のところに訪ねて来て、こんなことを言った。 「先生が言ったように、よい質問をする『質問力』のある人の方がかわいがられます。
でもよい質問をするのは難しいことですね」たしかに社会人になれば、質問で実力が刻一刻はかられている。 「今頃こんなことを聞いているようでは、こいつは見込みがない」とか「こういう事を聞いてくるのは将来性がある。
よく勉強しているな」とか「自分なりのものの見方をしようとしているな」といったことが、質問でシビアに判断されているのだ。 質問の仕方はプレゼンテーション以上に、人の実力をあらわにする。
プレゼンテーションは、そのときどきのアイディアに左右される。 だが「質問力」はたいがい安定しているものだ。
低い人は低いところで安定している。 高い人は余計なことは聞かず、肝心なことだけ聞いてくる。
はっきりした実力差がある世界である。 ちょうど武道のように、伺段とか何級という明確なレベルがつけられる世界である。
だからこそ、スキルアップしていくことができる。 ケーススタディをしながら上手に質問していくためのコツを具体的にあげていくつもりだ。

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